アメリカン・ポークの安全性についてβ作動薬に関するQ&A

Q1.βアドレナリン受容体作動薬とは何ですか?

βアドレナリン受容体作動薬(略称:β作動薬)とは、動物の筋肉、脂肪、その他の組織の細胞表面にあるβ受容体と結合して効果を発揮する、天然に産生される物質を模倣した合成化合物です[l,4]。人医療では、β作動薬は喘息などの病態の治療に使用されます[5]。しかし、畜産においては、成長促進や身体組成を変えるために他の種類のβ作動薬が使用されます。

Q2.どのように作用しますか?

畜産ではβ作動薬は適正量を飼料に混合して使用します[3]。出荷前の数週間にわたり家畜に摂取させます。β作動薬は消化管から血中に吸収されると、細胞表面上のβアドレナリン受容体と呼ばれる特殊な種類の受容体と結合します[4]。こうしてβアドレナリン受容体の活動を刺激することから、βアドレナリン受容体作動薬と呼ばれています。この刺激作用により細胞内で連鎖反応が生じて代謝、増殖およびその他の細胞内の事象が変化し、その結果、動物の生体内の筋肉および脂肪組織の成長が変化します[1]。

Q3.畜産で使用できるβ作動薬にはどんなものがありますか?どの動物種に使用できますか?

米国でFDAにより食用動物種への使用が認可されているβ作動薬には、ラクトパミン塩酸塩とジルパテロール塩酸塩の2剤があります。ラクトパミンは豚、牛および七面鳥への使用が認可されており、ジルパテロールは牛への使用のみが認可されています[1,3]。鶏または羊への使用が認可されているβ作動薬はありません。さらに、ラクトパミンおよびジルパテロールの使用は、ブラジル、カナダ、韓国、メキシコなど世界のその他の国でも認可されています。

Q4.人々は畜産で抗生剤を使用することによる抗生剤耐性について心配しています。畜産でβ作動薬を使用することにより、人医療においてβ作動薬の効果が減弱してしまう心配がありますか?

2つの理由により、β作動薬への耐性を心配する必要はありません。
1つ目に、β作動薬を畜産で使用する目的は、抗生剤とはまったく異なります。抗生剤は細菌の増殖を抑制したり、殺滅したりするために使用します。抗生剤の耐性は、細菌が抗生剤投与を受けても生き残るために変化することで発現します。これにより特定の細菌が一部の抗生剤に耐性を示し、抗生剤による人間や動物の細菌感染症の治療効果が弱まることになります。これに対して、β作動薬は動物の体内に存在する異物細胞ではなく、β作動薬を摂取した各動物自身の細胞を標的とします。β作動薬は細菌には作用しないため、耐性が発現することはありません。
2つ目に、人医療で使用されるβ作動薬と畜産で使用されるβ作動薬は異なります。ラクトパミンやジルパテロールといった化合物は、人間の体調や疾病治療のために使用されることはありません。

Q5.畜産でβ作動薬を使用するどんなメリットがありますか?

畜産で使用される他の科学技術と同様に、β作動薬は赤身肉の生産効率を高めます。豚において、ラクトパミンの使用により増体量が増加し、同じ増体量を得るために必要な飼料を減らすことができます。さらに、赤身肉が増加し、枝肉中の脂肪量が減少し、その結果、赤身肉の歩留りが増加します[2]。ジルパテロールおよびラクトパミンを牛に使用することで、増体量が増え、増体効率が改善します。β作動薬を給与した牛では、赤身肉の歩留りも増加します[1]。
こうして生産が改善されることで、数多くのよい結果が得られます。効率の改善により、食肉生産に必要な資源(穀物、水、土地)が減ります。こうして、少ない資源の投入でより多くの食肉を生産することができることで、全体的な畜産の持続可能性が改善されます[1]。

Q6.β作動薬とステロイドインプラントにはどんな違いがありますか?

インプラントには天然および合成ホルモンが含まれており、動物のホルモン状態を変化させ成長を促進します。インプラントは牛の耳に埋め込み、食肉処理前に休薬期間を設ける必要はありません。ステロイド剤は豚または家禽への使用が認可されていません。一方、β作動薬は動物のホルモン状態に影響しません。β作動薬は薬用飼料添加物として投与します。休薬期間は製品により異なります。

β作動薬の展望

β作動薬は人間においてしばしば使用される栄養サプリメントと同様、飼料成分として使用されます。これは、栄養素を脂肪ではなく筋肉に振り分けるため、しばしば栄養再分配剤と呼ばれます。β作動薬は、長年の使用経験と動物に適正用量を投与してFDAが設定した許容濃度を超えないことを保証するための研究に基づき、非常に的を絞って使用されます。β作動薬は水溶性のため、速やかに動物の代謝処理を受け排泄されます。多数の試験の解析から、β作動薬は肉の色、硬さ、保水性、脂肪交雑にほとんど影響しないことがわかっています。
2012年にConsumer Reportsが豚肉を対象に行った検査では、豚肉サンプルの80%からはFDAが承認しているβ作動薬のラクトパミンは検出されませんでした。サンプルの20%からはラクトパミンが検出されましたが、FDAが規定する制限値を十分下回りました。
ラクトパミンはカナダ、メキシコ、オーストラリア、ブラジルを含む26カ国で承認されています。CODEXは2012年7月、ラクトパミン残留量の最大許容限度を設定することでラクトパミンの安全性を認めました。CODEXの決定事項は世界標準となります。

まとめ

成長促進剤は、高品質で手ごろな価格の食肉を継続して供給するため、食肉生産で使用されています。成長促進剤の厳格な連邦規則および使用の監視により、承認された成長促進剤を使用した動物の食肉が安全で健康的であることを消費者に保証する必要があります。

資料:米国食肉科学協会・ファクトシート

参考文献
  1. Anderson, D. B., D. E. Moody, and D. L. Hancock. Beta adrenergic agonists. Encyclopedia of Animal Science, 2004. p. 104-108.
  2. Arp, T. S., S. T Howard, D. R. Woerner, J. A. Scanga, D. R. McKenna, W. H. Kolath, P. L. Chapman, J. D. Tatum, and K. E. Belk. Effects of dietary ractopamine hydrocholoride and zilpaterol hydrochloride supplementation of performance, carcass traits, and carcass cutability in beef steers. Journal of Animal Science, 2014. 92(2):836-843.
  3. Centner, T J., J. C. Alvey, and A. M. Stelzleni. Beta agonists in livestock feed: Status, health concerns, and international trade, 2014. 92(9):4234-4240.
  4. Mersmann, H.J., Overview of the effects of beta-adrenergic receptor agonists on animal growth including mechanisms of action. Journal of Animal Science, 1998. 76(1):160-172.
  5. Moore, R.H., A. Khan, and B.F. Dickey, Long-acting inhaled (32-agonists in asthma therapy. Chest, 1998. 113(4):1095-1108.

出典: North American Meat Institute (NAMI) Fact Sheet