アメリカン・ビーフの安全性について肉用牛へのホルモン剤使用について理解する Q&A

アイオワ州立大学肉用牛専門家Dan Loy氏

Q1. 現代の肉用牛生産において、牛農家が「ホルモン製剤」を使用するのはなぜですか?

今日、米国の牛肉の大半は「穀物牛」です。昔から米国の牛肉消費者は若齢の去勢牛や未経産牛の柔らかい牛肉を好んできました。これらの牛は生涯の大半を牧草地で牧草を食べて過ごしますが、最後の120~200日間の「肥育期」には管理された給餌が行われ、穀物、収穫した飼い葉および栄養サプリメント(ビタミンおよびミネラル)といったバランスのとれた飼料が給与されます。

若齢の去勢牛や未経産牛に少量のホルモン製剤を投与することで、雄牛(未去勢)または成熟した雌牛のような成長速度が得られます。投与するホルモンが、成熟した雄牛(未去勢)または雌牛が産生する天然のホルモンに比べてほんの僅かであっても、同じ結果が得られます。

Q2. ホルモン製剤とは何ですか?どのように投与しますか?

ホルモン製剤は主に、牛の耳の皮下に小さなペレット状製剤を埋め込んで投与します。この耳に埋め込まれたインプラントは100~120日間をかけてゆっくりと溶解します。耳が使用される理由は、耳は食品供給チェーンに入らないためです。

有効成分の大半は天然に産生されるホルモンであり、エストロゲンまたはアンドロゲンです。エストロゲンは天然、合成または植物由来のホルモンです。アンドロゲンは天然または合成のホルモンです。天然のアンドロゲンと比べて合成アンドロゲンインプラント(酢酸トレンボロン)は、雄が攻撃的になる負の作用が少なく、より強い筋肉増強作用があります。

インプラントの種類、牛の年齢および性別に応じて、成長速度は10~20%改善し、牛肉の生産コストを5~10%下げられます。研究によると、コスト低下の恩恵が消費者に回ってきます。牛肉の生産効率が高くなると、必要な飼料や土地の資源を減らせます。

Q3. ホルモン製剤は安全ですか?

ホルモンインプラントは食品医薬品局(FDA)により規制され、新規のホルモン製剤が承認されるまでに広範な毒性試験が実施されます。FDAによる毒性試験には、こうした製剤が環境に入る前の分解評価も含まれます。牛肉の安全性を保証するため、食品安全検査局(FSIS)は合成ホルモン製剤の残留物について定期的にモニタリングします。天然のホルモン製剤は、動物が産生するホルモンと差がなく、通常の産生量と比べて量が少ないため検査の対象になりません。

人間が産生する天然のアンドロゲンおよびエストロゲンは、ホルモンインプラントを使用した牛肉500gの含量と比べて数千倍高い量になります。さらに、その他の一般的な食品中(卵や牛乳など)には、インプラントを使用した牛肉よりも高濃度のエストロゲンが自然に含まれています。インプラントを使用した牛肉と比べて、同量のきなこには数千倍のエストロゲン活性が含まれています。一般的な食品中のエストロゲン活性と人間の天然エストロゲン産生量を表1と2に示します。

多くの消費者から、牛肉中のホルモンとがんや子供の早熟との関係について質問が寄せられます。身長、体重、食事、運動および家系といった要素は早熟と関係しますが、低年齢の女児において、インプラントを使用した牛肉を介して高濃度のホルモンに曝露されることで早熟化が起きることは示されていません(参考文献を参照)。

表1 一般的な食品のエストロゲン活性(ng/500g)
食品エストロゲン活性
脱脂大豆粉755,000,000
豆腐113,500,000
うずら豆900,000
白パン300,000
ピーナッツ100,000
555
バター310
牛乳32
インプラント使用去勢牛の牛肉7
インプラント非使用の去勢牛の牛肉5

Hoffman and Eversol (1986), Hartman et al (1998), Shore and Shemesh (2003), USDA-ARS (2002).動物製品についてはエストロンとエストラジオールの合計、植物製品についてはイソフラボン(食品500 g当たり)をナノグラムの単位で示しています。

表2 人間のエストロゲン産生量とインプラント使用の牛肉からのエストロゲン推定摂取量
項目エストロゲン量
妊婦19,600,000 ng/日
妊娠していない女性513,000 ng/日
成人男性136,000 ng/日
思春期前の子供41,000 ng/日
インプラントを使用した牛肉(500g)7 ng

HoffmanおよびEversol(1986)

参照資料
  • Gandhi, Renu and Suzanne Snedeker. 2000. Consumer Concerns about Hormones in Food. Cornell University Program on Breast Cancer and Environmental Risk Factors in New York State. Fact Sheet #37. http://envirocancer.cornell.edu/Factsheet/Diet/fs37.hormones.cfm
  • Steroid Hormone Implants Used for Growth in Food-Producing Animals. 2011. Food and Drug Administration. Center for Veterinary Medicine. Product Safety Information: http://www.fda.gov/AnimalVeterinary/SafetyHealth/ProductSafetylnformation/ucm055436.htm
  • Doyle, Ellen. 2000. Human Safety of Hormone Implants used to Promote Growth in Cattle. A Review of the Scientific Literature. Food Research Institute, University of Wisconsin. http://fri.wisc.edu/docs/pdf/hormone.pdf
  • Acevedo, Nicolas, John D. Lawrence and Margaret Smith. 2006. Organic, Natural and Grass-Fed Beef: Profitability and constraints to Production in the Midwestern U.S. Iowa Beef Center white paper.
  • Iowa State University. http://www.iowabeefcenter.org/Docs_econ/ Organic_Natural_Grass_Fed_Beef_2006.pdf
  • Hoffman, B. and Eversol. In Drug Residues in Animals, A. G. Rico (Ed.), pp. 111-146. Academic Press, New York (1986)
  • Hartmann, S., M. Lacorn and H. Steinhart.1998. Natural occurrence of steroid hormones in food. Food Chemistry 62:7-20.
  • Shore, L. S., and M. Shemesh.2003. Naturally produced steroid hormones and their release into the environment. Pure Appl. Chem 75:1859-71.
  • U.S. Department of Agriculture, Agricultural Research Service. 2002. USDA-Iowa State Univercity Database on the Isoflavone Content of Foods, Release 1.3 - 2002. Nutrient Data Laboratory website: http://www.nal.usda.gov/fnic/foodcomp/Data/isoflav/isoflav.html