アメリカン・ミートの安全性管理の基本情報すべての食肉加工工場でHACCP導入

アメリカの食肉製品は、国内用・輸出用を問わず、連邦政府に認定された食肉加工工場で製造されます。工場では「連邦食肉検査法(Federal Meat Inspection Act)」に従って、食品安全検査局(FSIS)の検査官が生体の目視検査から、と畜後の微生物、病原菌、残留物質などの各種検査を行い、すべての検査に合格したものだけが出荷されます。

検査担当者(獣医または検査官)は、と畜前にすべての家畜を検査し、人間の食用にと畜できるかどうかを判断する必要があります。USDA検査官の資格要件には、関連分野(農業または食品科学)での学士号または関連職種での最低1年の経験が含まれます。加えて、検査官は、いくつかの訓練項目および現場での訓練を完了する必要があります。 食肉処理施設には、認定獣医師になるすべての検査官を担当する獣医師もいます。

食肉処理工場はすべてHACCPシステム(危害分析重要管理点方式)の導入が義務付けされています。HACCPとは、「Hazard(危害)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」「Control(管理)」「Point(点)」の略語で、食品の製造工程で、どの段階で微生物や異物混入が起きやすいかという危害をあらかじめ予測・分析して、重要管理点(CCP)を設定し、その管理基準とモニタリング、(モニタリングで基準から外れた場合の)是正措置と検証方法を決め、被害を未然に防ぐ管理方法です。

HACCPは、1960年代に宇宙食の安全性を確保するためにアメリカ航空宇宙局(NASA)を含むアメリカの各機関によって構想されました。1973年に食品医薬品局(FDA)が缶詰食品の製造基準として取り入れたのをきっかけに普及がはじまり、1996年7月、食品安全検査局(FSIS)は、食肉の安全性の向上による食中毒の減少と近代的な食肉検査システムの構築を目的に、と畜場や食肉加工施設におけるHACCP導入を義務化しました。

HACCPは7つの原則と12の手順によって構築されます。HACCP構築の前提である衛生標準作業手順(SSOP)、適正製造基準(GMP)を含めて、原料の搬入から加エ、製造、出荷までの全行程における安全性管理が定められます。工程管理とCCPなどは製造製品ごとに設定されますが、例えば、牛枝肉の製造工程における工程とCCPは以下のようになります。

牛のと畜における一般的HACCPモデル

(Generic HACCP Model for Beef Slaughter(FSIS編)等より作成)

  1. 生体受入
  2. スタンニング
  3. 放血
  4. 剥皮 ※1
  5. 頭部除去
  6. 内臓摘出
  7. 背割り
  8. トリミング
  9. 最終洗浄 ※2
  10. 冷却 ※3
SSOP : 剥皮 ※1
作業手順 ➀ナイフを挿入する、 ➁ナイフが表皮にのみ接触するよう内側から外側に向けて切り開く、 ➂手を洗浄する、 ➃皮の切開及び剥皮の開始のたびにナイフを洗浄・消毒する(2ナイフシステムを推奨)
是正措置 ➀問題の評価、原因究明、 ➁設備の修繕、 ➂人員、ライン速度の調整、 ➃作業員の再訓練又は交替、 ➄30分以内の再評価、 ➅不適合品の修復及び再検査
CCP-1 : 最終洗浄 (ゼロトレランス及び抗菌処理) ※2
管理基準 ➀肉眼で確認可能な汚染物(糞便等)が枝肉にないこと、 ➁枝肉洗浄ボックス内で2%乳酸(圧力20-30psi、40°C)で10秒間洗浄
モニタリング ➀処理数全体の25%の枝肉について、汚染物の有無の目視確認、 ➁管理基準を達成する洗浄パラメータの測定(2時間毎)
是正措置 ➀製品の保留、 ➁洗浄パラメータのチェック、 ➂機械動作のチェック、 ➃追加の抗菌処理
検証 ➀シフト毎のHACCP記録の確認とモニタリング作業の確認、 ➁シフト毎の枝肉洗浄ボックスの作動確認
CCP-2:枝肉の冷却 ※3
管理基準24時間以内に枝肉の表面温度を4.4°C以下にする
モニタリング管理基準を達成する冷却パラメータ又は枝肉の表面温度の測定
是正措置 ➀時間及び温度の逸脱程度に応じて製品を保留又は廃棄、 ➁原因究明、再発防止、 ➂必要に応じて冷蔵庫の調整及び修理
検証 ➀シフト毎の庫内温度、枝肉表面温度の確認・記録、 ➁シフト毎の温度記録チャートの作動確認、 ➂定期的な温度計の校正

HACCPの原則を取り入れた管理手法は、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品規格委員会(コーデックス)で基準を規格化し、各国に採用を推奨しています。日本では2018年6月の食品衛生法の一部改正により導入(現在は経過措置期間)が進められていますが、アメリカではすでに20年以上にわたり運用されてきました。

連邦食肉検査法(Federal Meat Inspection Act)

HACCPシステムについて

HACCPの背景と経緯

1906年以降、現代に至るまで、アメリカの食肉産業は最も規制が厳しい産業の一つとなっています。アメリカの食肉検査システムは、世界で最も安全な食肉製品を提供する努力を後押ししてきました。USDAの食品安全検査局(FSIS)は、連邦食肉検査法(FMIA:21 U.S.C. 601 et seq.)に基づき、市販用の食肉製品の生産を取り締まる規則を施行します。

FSISおよび所属する約8,000名の検査担当者が、食肉、家禽肉・卵製品の生産業者約6,500施設の検査を行っています。検査員は、牛・豚の枝肉1億本以上について、食肉処理前後の目視および物理的検査を実施します。

連邦検査員も、製品の安全性およびラベル表示の正確性を確認するため、処理、取扱いおよび包装をモニタリングします。連邦検査員には、製品への検査済マークの付与を差し控えることで、食品安全基準の違反として施設を閉鎖する権限があります。

連邦検査下の企業は、全製品にUSDAマークを表示します。このマークには、製品の製造施設を示す施設番号が含まれます。このマークがあることは、該当製品が、産業界で適用されている最も包括的な規則の一つを遵守して生産されたことを示しています。

20世紀末に、米国食肉協会(北米食肉協会の前身)、米国科学アカデミー、米国会計検査院および米国食品微生物基準諮問委員会は、微生物病原体の問題を改善するため、既存の検査システムの変更を要求しました。1996年から食肉・家禽肉検査手法の大きな転換が始まり、病原菌低減/危害要因分析重要管理点(PR/HACCP)規則が施行され、すべての食肉・家禽処理施設はHACCP計画を適用しなければならなくなりました。

HACCPの概要

HACCPは、製造後に問題を検出するのではなく、問題の発生を事前に防ぐという戦略です。HACCPの概念は、宇宙飛行士に安全な食品を提供するため、Pillsbury社が開発・運用したものです。HACCPの最初の段階は危害要因の分析であり、各施設で各種製品の製造工程を分析し、理論上、重大な危害要因が発生しうる工程を特定します。

理論上発生しうる重大な危害要因を特定した後、施設ではこの危害要因を管理する方法を決定します。食品安全性の危害要因を予防、低減または排除するうえで重要な工程段階を重要管理点(CCP)として、管理と対策をこれらのポイントに集中させます。

施設ではCCPで様々な方法を実施します。多くの食肉処理施設では、家畜の生体の外表の微生物学的危害要因を低減するため、スチーム、熱湯およびその他の洗浄を実施します。その他、枝肉を洗浄するため携帯式スチームバキュームを使用する施設もあります。管理法には、食品添加物(微生物学的危害要因になりうる微生物の殺菌・増殖抑制)、赤外線・熱トンネル(製品表面の低温殺菌)および高圧システム(殺菌)の使用があります。

食肉加工施設の設備または製品に実施する微生物検査には、大腸菌、リステリア菌およびサルモネラ菌の検査があります。これらの検査は、食品安全システムが適正に機能していることを証明するため、企業または連邦検査室で実施します。

連邦検査員は、食肉加工施設がHACCP計画を遵守しており、製品が連邦の基準を満たしていることを確認します。

食肉の安全性を確認するための措置

市場に入るすべての食肉・家禽肉製品は、米国農務省(USDA)の公衆衛生機関である食品安全検査局(FSIS)が、当該製品が安全で連邦規則を遵守して製造されたことを確認するために検査を実施しなければなりません。食肉製品の一部は、州政府に所属する検査員が検査を行いますが、同検査員はFSISの食肉・家禽肉検査員と同じ権限を有し、同じ基準・規則を施行します。

食肉検査規則では、食肉処理施設が食肉・家禽肉製品の微生物汚染を低減するための対策を実施することを要求しています。家畜および新鮮な食肉製品で自然に認められる細菌の検出量は通常ごくわずかです。

食肉は元々家畜の筋肉であり、内部は無菌状態です。しかし、家畜の皮、消化管、作業者または環境から製品に汚染が持ち込まれる可能性があります。動物の生存時、食肉処理時、製品の輸送時および調理の段階で実施する微生物汚染の予防手順を「介入」と呼びます。

食肉製品の安全性を保証するため、「HACCP」と呼ばれる全体的な食品安全性アプローチを採用し、製造システムのすべての分野を評価します。製造システム内で汚染が発生する可能性のある重要管理点を特定し、この管理点での病原菌の侵入、拡散または生存を低減するための介入措置を集中して実施します。

重要な介入の導入に加えて、製造工程全体を通じた安全性取扱い手順の実施により、消費者に安全で満足できる食体験を提供することができます。1990年代前半から多数の科学技術が導入され、非常に高い効果を示してきました。USDAのデータによると、枝肉および食肉製品に存在する細菌数は著しく減少しました。細菌がまったく存在しない生肉の提供は依然として技術的に不可能ですが、食肉業界では、限りなくゼロまで細菌を低減させる新規の対策の研究が続けられています。

米国の食肉・家禽肉産業で最も一般的に使用されている介入措置の一部を以下のリストに示します。企業では、それぞれ最も効果的に病原菌を低減した証拠に基づき、以下の介入措置から1つかそれ以上を選択し適用しています。

農場での措置

食肉処理のために処理施設に到着する前に、家畜生体に存在する細菌を減らすよう努めることが重要です。家畜生体への病原菌の感染を予防するため、農場で実施されている措置、使用されている幾つかの方法を以下に示します。

ワクチン 病原性大腸菌O157:H7の培養系で放出される毒性因子は、効果的なワクチン成分となり、フィードロットで飼育されている牛において、細菌排出を著しく低減することが示されました。現在までに条件付きで使用が承認されているワクチンは、1種類だけです。
プロバイオティクス 無害かつ有用な細菌であり、病原菌と競合して病原菌を減らしたり、消化管での定着を予防したりします。さらなる研究が待たれる分野です。

食肉処理施設での措置

製造施設では、細菌による最終製品の汚染を防ぐ措置が一連の防御壁のように導入されています。処理施設ごとに製造する製品の種類が異なり、固有の工程に基づき、様々な組み合わせの措置を選択することができます。

一般的に使用される措置は以下のとおりです。
外皮の洗浄皮から枝肉への細菌の移動を低減するため、牛の食肉処理前に外皮を洗浄している処理施設もあります。
衛生的な剥皮家畜の皮は食肉処理中に汚染源となる可能性があります。従業員は、外皮から枝肉への交差汚染を予防・低減する方法で皮を除去または処理できるように、詳細なトレーニングを受けます。皮剥ぎ後、枝肉に依然として存在している可能性があるあらゆる汚染を除去するため、洗浄および抗菌剤処置を行っています。
枝肉の洗浄/熱水洗浄熱水の噴霧は、枝肉から微生物汚染を除去する上で効果的です。
スチームバキュームスチームを発生する携帯式バキュームマシン(吸引機)により、目視できる汚染の局所的な処置が行えます。
熱処理/スチーム殺菌多くの処理施設では、枝肉外側にスチームを吹き付けて殺菌を行うスチーム殺菌または熱湯キャビネットが使用されています。熱湯キャビネットは処理前の枝肉の殺菌に使用されます。作業者は、細菌が含まれる可能性のある目視できる汚染にスチームバキュームを使用します。
酸性化亜塩素酸ナトリウム使用が認められた大量の酸とともに使用し、噴霧または浸漬により枝肉のpHを変え、微生物が生存しにくい環境にします。
乳酸による洗浄分割する前の枝肉に乳酸がよく使用されています。
ラクトフェリンまたは
次亜塩素酸カルシウム
細菌を減らすため、水に溶かした抗菌剤を枝肉全体または部位に噴霧することができます。
二酸化塩素殺菌のため、赤身肉または臓器に二酸化塩素を噴霧または浸漬を行うことができます。
バクテリオファージファージは標的とする細菌を攻撃・殺傷する安全で無害なウイルスです。最近、食品医薬品局(FDA)は、病原体の増殖を抑制または予防するために、特定のファージを食品に使用することを承認しました。
次亜臭素酸米国の牛肉産業界では一般的に、以下の部位に対して枝肉の殺菌処理に次亜臭素酸が使用されています:皮(切除前)、枝肉および頭部の洗浄(皮の切除直後)、枝肉(冷蔵保管直前および/または冷蔵保管中)。過去数年にわたり、USDA、製造業者および第三者研究機関が多数の研究を行い、この技術を現在の方法で適用することの妥当性が実証されてきました。

出典: North American Meat Institute (NAMI)  Fact Sheet