全米の週当たりの豚と畜頭数は、過去最多の277万8000頭から、わずか4週間で週当たり200万頭も水準を下げた。3月の生体豚出荷は、2つの理由から当初予想より早く進行していた。州の緊急事態宣言を受けて消費者がストック買いに走ったことで、パッカーもと畜頭数を増加。生産者も工場閉鎖の潜在的リスクを認識し、積極的な出荷を続けた。
豚肉価格はパニック買いが落ち着くと反落したものの、再び上昇に転じている。上昇幅は部位によって大きく異なるが、今回の価格上昇は需給両面で多くの要因が重なっている。
【需要】ロックダウンとソーシャル・ディスタンシングによって、外食ビジネスが事実上破壊され、小売への需要シフトが起こっている。このシフトは3月の販売統計にはっきりと表れており、食料品店の売上は742億ドル(前年同月比29.6%増・170億ドル増)、外食売上は486億ドル(同22.7%減・143億ドル減)となっている。
需要のシフトは、一部の品目の価格により強く影響している。従来の小売では、リブアイやトップサーロインバットなど一部のステーキカットが主要商品だったが、現在は牛ひき肉・ラウンド・チャックなどの相対的に低価格の商品に需要がシフトしている。
一方で、鶏ムネ肉は伸び悩んでいる。外食から流れ込んだ余剰製品によって、小売市場にはムネ肉が溢れている。外食で使用される鶏肉は、小売販売よりも大容量のため、ムネ肉3枚・4ポンド入りトレイは小売では魅力的な商品にはならない。
【供給】3月の価格急騰は、需要のシフトが起爆剤となった。しかし現在は、市場への供給が難局化しつつあることが価格上昇の要因だ。多数の食肉工場で、一時閉鎖や労働力制限によって稼働が低下している。
最近の報告によると、米国内の食肉工場の3分の1が、COVID-19発生件数の上位25%に入る州に設けられていることがわかっている。感染拡大の抑制のため、従来のような人員配置を維持することは難しくなっている。
外食専用ラインから小売用製品へとシフトする動きが進行中だが、これまで加工・流通業者は、外食か小売のどちらかに焦点を絞って効率を向上させてきた。外食向け製品の梱包設備も備えた業者が、小売向けに供給をシフトするのには限界がある。またチルドミートは“ジャストインタイム”のサプライチェーンが構築されており、システムの変更・調整が制限される。
このため、生産者が牛乳を捨てて野菜を廃棄し、子豚を淘汰するような状況が起こりつつある。同時に、食料品店のショーケースに供給できる量が減少し、需要を制限しているために価格が上がっている。
【結論】家畜の飼養頭数が記録的水準にある一方で、消費者へ供給できる量が減少し、供給混乱が生じている。家庭で消費される食事が増えているため、今後も小売が消費者の需要シフトの利益を受けることは確実だ。豚肉価格は短期的な高騰が予想されるが、6〜8月の価格見通しについてはかなり不透明感が強まっている。
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