米国、中国、メキシコ、カナダの間で勃発した貿易戦争により、米国経済は何十億ドルもの損失と何十万もの雇用消失を被る恐れがある。米国の豚肉産業だけでも、今後12カ月間で8億3500万ドルの損失が見込まれている。
この貿易戦争は、トランプ大統領が中国製品500億ドル分に25%の関税を課すと発表した後、中国が米国製品500億ドル分に対し関税を25%に引き上げる報復措置を取ったことでエスカレートした。何らかの交渉と和解がなければ、340億ドル分の中国製品に対する米国の関税は7月6日に発効する。
米国小売協会のCEOマシュー・シェイ氏は、この貿易戦争にはアメリカの家庭も巻き込まれると指摘。同協会とコンシューマー技術協会の調査によると、中国製品500億ドル分に関税を課すことで、米国の国内総生産(GDP)は年間約30億ドル減少、アメリカ人13万4000人の雇用喪失につながることになる。中国製品1000億ドル分に関税を課すと、その影響は年間49億ドルのGDP減少、45万5000人の雇用喪失にまで拡大するという。
米国食肉輸出連合(USMEF)の特別報告書によると、中国の報復関税に加え、メキシコが米国産豚肉に対する関税を6月5日に0%から10%へ、さらに7月5日に20%へ引き上げることで、豚肉産業は2018年の残りの期間で3億ドル以上、さらにその後12カ月間で6億ドルを失う可能性があるという。
メキシコ向けの米国産豚肉輸出は、モモが75%を占めるが、メキシコへ出荷されなくなった製品は、他の輸出市場や国内市場で低価格で吸収される可能性が高い。こうした値下げ圧力がモモとピクニックの双方に加わると、2018年7月〜12月には4億2500万ドル、次の12カ月間には8億3500万ドルの損失が発生する可能性があるという。
USMEFは、追加関税によって@米国製品の市場価格が下落し、輸出量が減少するA高い関税に適応するために、輸出製品の価格とマージンが下がるB食肉価格の下落に引きずられて家畜の価格が下がるC取引相手国が米国製品に代わる多様な製品を求めることで、マーケットシェアの長期的な損失が発生する、などの可能性があると分析している。
メキシコは2018年末まで、チルド・フローズンポークの無税輸入割当35万トンを設定し、うち97%は2017年に輸入実績のある企業に割り当てられている。 輸入許可証は先着順で付与されるが、米国の企業は米国産豚肉の許可申請を承認されていない。
米国・メキシコ間の貿易戦争によって最も利益を享受する見込みが高いのはカナダだ。加えて欧州連合(EU)も、約60のと畜施設がメキシコへの輸出が承認されたことから恩恵を受ける可能性が高い。実際に、EUは先週初めてメキシコに豚肉を輸出した。 カナダとEUの対メキシコ豚肉供給量が増加すれば、メキシコでの米国産豚肉のシェアは現在の90%から75%にまで低下。米国の輸出量は月間約1万トン、今年の残り期間で6万トン以上減少する可能性がある。
米国・中国間貿易の緊張は、豚肉産業だけにとどまらず、関連産業界の大手企業の株価から大豆の先物価格、牛肉輸出の未来まで、あらゆるものに影響を与えている。中国は先週、米国の牛肉輸出認定施設リストを更新した。
北米食肉協会のバリー・カーペンター会長兼CEOは、追加施設20件が確実に承認されるよう努力したUSDAに拍手を送りたいと述べるとともに、牛肉の中国・香港向け輸出量は昨年から23%増、輸出額51%増、2018年はさらなる成長が見込まれていたが、貿易摩擦が拡大しているため、米国産牛肉のサプライヤーは、中国市場で真のポテンシャルを発揮できない可能性があると懸念している。
この貿易戦争の影響は、まだ米国の肥育牛価格や牛肉卸売価格には及んでいない。だが、オクラホマ州立大学のデレル・ピール博士は、この不確実な状況が今年下半期の市場に悪影響を及ぼす可能性は高いと指摘する。牛肉輸出への直接的な影響だけでなく、豚肉の輸出減少と国内供給の増加による間接的な影響など、複雑な組み合わせで市場に波及するだろうと指摘。最終的な影響範囲を定義するのは難しいが、悪影響であることに疑う余地はないと危惧している。
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