今年の米国の豚肉生産量は記録的なものとなり、2017年も生産拡大は継続する見込み。こうした供給の拡大は新たな機会を創出すると同時に、豚肉産業全体の大きな課題となっている。ポーク・チェックオフは、現在の傾向と米国の生産者に対する影響について、専門家と電話会議を行った。シュタイナー・コンサルティング・グループのレン・シュタイナー氏と、グローバル・アグリトレンド社のブレット・スチュワート氏は、米国の豚肉産業を動かす鍵となる主要な5つのポイントを次のように指摘した。
①米国の経済成長は食肉需要の追い風=経済成長は概して食肉需要の追い風となる。ここ数週間で歴代最高値を記録している株式市場や、失業率(4.9%)の低下、良好な消費者マインドは、次期大統領が決定したことでより安定するだろう。
②トウモロコシ供給の増加で食肉供給も増加=2012〜13年のトウモロコシ生産量は107億ブッシェルだったが、その後3年間の生産量平均は139億ブッシェル、今年は150億ブッシェル以上の見込み。トウモロコシのブッシェル当たりの価格は、2012年の8ドルがピークで、現在は3〜3.50ドル。家畜生産者は潤沢で安価なトウモロコシを活用できる。2014年の食肉総生産量は909億ポンドだったが、2018年までに1010億ポンドを超えると予想される。このうち豚肉は、2016年の生産量が過去最高の249億6000万ポンド、2017年はさらに増加して256億ポンドに達する見込み。
③小売価格の修正遅れが卸売価格と生体豚価格に影響=小売価格の調整には時間がかかる。2016年10月の豚肉小売価格はポンド当たり約3.74ドルで、前年同月より約5.8%低いが、5年前よりは8%高い。卸売価格の指標となるカットアウト価格は、昨年10月より16.5%低く、5年前より26%低い。しかし、小売業者が15〜20%値下げしても、消費者はすぐには消費を増やさないため、値下げすると利益が厳しくなると考えている。休日向けの販促に集中しつつ、定番商品の価格を徐々に下げていく方向。大手フードサービスではメニューを固定しているため、価格調整はさらに遅い。新たなメニューの開発・マーケティングには数カ月を要する。小売業者とフードサービス産業は、中期的には豚肉価格は上昇しないと予想しているため、今後は価格修正と幅広いプロモーション活動を行うだろう。
国内の1人当たりの食肉消費量は2007年が275.1ポンドだった。その後の不景気が直撃し、エタノール需要と輸出需要の増加による飼育コストの急騰などから、2014年までに246ポンド、10%以上も減少した。しかし2016年には259.0ポンドとなり、2年前から5%増加、また過去7年間で最大の増加となった。2017年には262.3ポンド、2018年には264.6ポンドに増加すると予想。豚肉消費量は1982年以降、58.7〜68.1ポンドの範囲で推移。今年は推定で63.2ポンドとこの34年間のレンジの上限に近いが、まだ伸びる余地がある。
④短期的課題は処理能力が追いつかないこと=米国の豚肉生産者はここ数年間、記録的な生産コストの上昇、PEDvの発生、主要な輸出市場の消失といった課題を克服する強さを見せてきた。昨年、豚肉生産量が牛肉生産量を上回ったが、これは今年も継続する。供給が拡大するにつれて処理能力が追いつかなくなっており、これは短期的に生体豚価格への値下げ圧力となる。ただ今後18カ月以内に新たな豚肉工場の操業開始が予定されており、それによって値下げ圧力の一部は緩和され、生体豚価格と豚肉の卸売、小売価格間の格差は縮まるだろう。
⑤輸出が引き続き鍵となる=生産量に占める輸出比率は鶏肉16%、牛肉と七面鳥は10%未満であるのに対して、豚肉は20%以上。豚肉産業の拡大と増益のためには、今後も輸出市場の拡大が鍵となる。ただ輸出にはドル高、一部の新興市場での需要悪化、欧州産との競合などの課題も多い。しかし、米国の豚肉生産者は世界で最も効率的でコストが低く、製品は安全で栄養素が高いことが国際的にも認知されているため、世界市場で競合を勝ち抜くことができるだろう。
米国は世界で2番目の豚肉輸出国として、昨年の豚肉および豚肉製品の輸出額は53億ドルに達し、1頭当たり換算で47ドルの利益をもたらした。メキシコ、日本、韓国が三大市場であるが、121カ国に販路を見出している。日本向けのポークロイン、中国向けの耳やテールなどの副産物輸出は、米国の豚肉産業に相当な利益をもたらしている。
TPPによって、米国産豚肉の高収益な主要マーケットである日本市場へのアクセスが良くなることが語られてきたが、次期大統領に選出されたドナルド・トランプ氏は、TPP協定への加盟を取りやめる予定だと明言。また今年の輸出量の5%増は中国の輸入急増によるところが大きい。中国市場は短期的に鈍化し始めるだろうが、長期的には素晴らしい展望を与えてくれる。モモ肉の主要な輸入国であるメキシコも、非常に重要な市場となっている。
今後、世界の人口は年間7800万人ずつ増加する。加えて世界中で中産階級も増加している。経済協力開発機構の予想によれば、世界の中産階級は2015年の20億人から、2030年までに49億人に増加する。これは豚肉産業だけでなく、食品産業全体にとって非常に明るい要因だ。
アジアに集中している中産階級の増加は、幅広い種類の米国産豚肉製品に新たな機会を開くことになる。世界市場の拡大は、米国の豚肉業界にとって莫大な可能性を秘めている。
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