英国のEU離脱、豪州の総選挙、米国の大統領選挙など、政治的な問題が世界の食肉貿易に影響を与える可能性がある。米国の食肉産業界、とりわけ牛肉と豚肉業界は、自由貿易によって市場が開かれることがいかに重要かを熟知している。だからこそ、TPP協定を支持し、それを承認するように議会を促している。しかし、大統領選挙が終わるまで進展は見られないかもしれない。
共和党、民主党それぞれの大統領候補はTPP反対を表明しているが、TPPが批准されなければ、米国産牛肉の日本向け輸出は、豪州に対して関税上の不利を受け続け、米国産豚肉は新規市場への輸出拡大が進まないだろう。また、豪州の総選挙で労働党が政権を握れば、豪州のTPPへの関与にも影響があるかも知れない。
一方、EU離脱を決めた英国の国民投票は、株式市場や為替レートなど世界の経済を一時的に混乱させたが、いずれも回復している。この問題がEU・英国への食肉輸出にどう影響するかを判断するのは時期尚早だが、米国産牛肉の輸出という点で、英国がEUを脱退した後の一つの希望は、米国産牛肉のEU向け輸出において1986年に施行されたいわゆるホルモン・フリーについて、英国と交渉できるかもしれないということだ。
ミシシッピ州立大学のブライアン・ウィリアムズ氏によると、前向きにとらえれば、これは英国が米国と独自に取引協定を交渉する自由が増えるということであり、新たな取引協定によって米国産牛肉への制約が撤廃されれば、英国向けの牛肉輸出量は劇的に増加する可能性がある。米国からの英国への牛肉輸出は、限定的であったにせよ成長してきた。2015年の輸出量は367万ポンドで、前年より91万3000ポンド増加している。
米国牛肉産業がTPPを強く支持するのは、日本市場で関税面において豪州産牛肉と公平な競争ができるためだ。日豪EPAでは現状、豪州産牛肉の関税は米国産牛肉より10%低い。日本は米国の牛肉輸出額を牽引する重要な市場である。しかし、2015年の輸出額は12億8000万ドルと、前年比で19%減少している。
一方、NPPC(全米豚肉生産者協議会)はTPPに関して、これは米国産豚肉にとって5億人近い消費者への販路を開拓・拡大するもので、米国内で豚肉輸出に関連する1万人以上の雇用創出を促すだろうと述べている。TPPの批准が進展する一つの可能性としては、大統領選挙終了から来年1月の新大統領就任までの間に、批准のための議会が開かれ、決議が行われるかもしれないということだ。
|