年間で最も需要が高い月を控え、牛肉売り上げの伸び悩みが続いている。牛肉の最大の問題は他の食肉と比べて価格が高いことだ。米国消費者は1ドルで買える量を基準に肉を選んでいる。そのためスーパーが積極的な販促活動を実施しても、消費者は限定量しか購入しない。さらに新型インフルエンザ(A/H1N1)の発生で、豚肉は輸出が減少し国内市場の流通量が増えたため、卸売り段階で牛肉より低価格になっていることも一因だ。
5月2週、パッカーの間では「5月中は週5日操業とし、土曜は肥育牛の処理なし」が話題となった。そうなると5月末の連休まで、週間処理頭数を昨年(71万頭)より大幅に下回る65万頭以下に抑えることになる。しかし、5月上旬から6月中旬にかけては肥育牛の出荷頭数が最多になるため、週間処理頭数は65万頭よりもっと増やす必要があるとアナリストは見ている。
新型インフルエンザの豚肉業界への影響はまだ続いているが、ここ数日は成豚・豚肉価格が上昇して回復の兆しが見えている。
5月納入分の豚赤身肉の先物相場は、4月5週前半に新型インフルエンザの混乱で20%近く下落したが、後半は3日連続で値上がりした。水曜の豚肉販売量は955万ポンドにも達し、1日の販売量では2002年1月以来の高水準だった。同じ週に豚肉卸売価格は2日間で4.2%値上がりした。
国際獣疫事務局(OIE)は、新型インフルエンザ感染の広がりを理由とした豚の処分をしないよう、それよりも豚処理施設で適切な家畜疾病監視体制や全般的なバイオセキュリティー対策を取るよう、会員国に勧告した。OIEは国際的なインフルエンザ感染に関して、各国の判定試験所、世界保健機関(WHO)、国連(UN)、食糧農業機関(FAO)等の関係機関と連携して調査を進めており、今後も必要に応じてバイオセキュリティー、貿易関連の措置を勧告する意向だ。
全国豚肉生産者協議会(NPPC)は、4月下旬に米国農務省(USDA)に書簡を送り、新型インフルエンザの発生と「豚インフルエンザ」という誤った呼び方により経済的損失を被った豚肉業界に対し、救済措置をとるよう要請した。5月1日の時点で豚肉生産者の損失は1頭当たり17.69ドルで、4月24日〜5月1日の1日の損失総額は720万ドルにも達した。
米国、カナダ、メキシコの貿易最高責任者は4月30日、豚肉輸入に対する「科学的根拠のない禁輸措置」の解除を求める共同声明を発表した。3ヵ国の担当者は、「世界の主要な保健機関はいずれも、食品によるインフルエンザウイルス媒介の証拠はないと説明している」と言及した。これに先だって米国議会の有力議員数名が、米国産豚肉貿易の保護を強化するよう、オバマ政権に要請している。
米国とメキシコは新型インフルエンザに対する消費者の不安払拭に努めているが、豚肉の卸売りと成豚の現金取引価格への影響が続いている。豚肉市場の全面的回復には、まずメキシコ国民が普段通りの日常生活に戻り、米国が以前の注文量を取り戻すことが重要だ。新型インフルエンザ感染の拡大状況にもよるが、市場回復には数週間かそれ以上かかる可能性もある。メキシコでは5月2週には休校措置や企業活動の制約が解除された。しかしリゾートホテルが数週間の休業、クルーズ船が寄港を避ける、営業している飲食店は来店客の検温やテーブルを2メートル離すよう指示されているなど、観光・外食産業に影響が出ている。
米国市場ではメキシコからの豚肉再発注はなく、5月2週は安い商品に国内からの買い付けが相次いで、ここ数年で最高の200コンテナ分の発注があった。この週の成豚先物市場終値は5月分が59.20 ドル(100ポンド当たり)、6月分は66.77ドル(同)だった。成豚現金取引価格は若干回復して39ドル、枝肉は約52ドルで取引された。業界関係者は、「インフルエンザ感染が発生した最初の週、成豚生産業は1日で250万ドルの損害を被った」と話している。
新型インフルエンザウイルスの感染が広がり、刻々と状況が変化するニュースが報じられるなか、米国農務省食品安全検査局(FSIS)は5月8日、米国産食肉貿易の最新状況を発表した。それによると、多くの国が禁輸の解除を始めている一方で、インフルエンザ感染の恐れを根拠に禁輸を続けている国もある。
米国環境保護庁(EPA)は先日、「温室効果ガスは国民の保健・福祉を脅かす恐れがある」という所見を発表した。今後は大気汚染防止法に基づいた温室効果ガスの排出規制につながる可能性があり、大きなコスト負担となる農場・牧場経営者は反対している。
一定規模以上の農場には排出料が課せられる(米国農務省による)ため、米国農業会連合(AFBF)の試算では1頭当たりで肉牛は87.50ドル、豚は21.87ドルの排出料がかかり、9割を超える畜産業者が影響を受ける。気候変動に詳しいAFBFの専門家は、「大気汚染防止法を現状のまま適用すると農業・林業の経営が制限されるのに、土壌に吸収される温室効果ガスは評価されない。規制よりも生産者に温室ガス排出軽減を奨励する取り組みのほうがよい」と話している。