リポート - U.S.ビーフのグレーティングとパラタビリティアメリカンビーフの肉質等級とおいしさの相関
牛肉の質
肉質を高めるもの
- やわらかさ
- 風味
- ジューシーさ(肉汁の多さ)
肉質に影響するもの
- 脂肪交雑
- 月齢(肥育期間)
- 飼料(種類、栄養成分)
- 遺伝的性質
何が牛肉の質を高めるかを考えるとき、消費者は通常、肉のやわらかさ、風味、ジューシーさを肉質と関連付けます。
しかしながら、肉のやわらかさ、風味、ジューシーさに影響するものを見てみると、これらの特性に影響し得る因子は、と畜の前にも後にも、多くの要素が存在します。中でも脂肪交雑(マーブリング)と牛の月齢の2つは、米国農務省農業販売促進局(USDA-AMS)の牛肉格付制度による肉質等級と関係することから、最も重要になります。また、牛が摂取する飼料の成分や牛の遺伝的性質といった因子も肉質に影響することがあります。
脂肪交雑(マーブリング)
脂肪交雑とは?
- 筋肉の中に細かく入り込んだ脂肪
- 「筋肉内脂肪」(霜降り、サシ)
なぜ脂肪交雑が重要なのか?
以下の特性を向上させるから
- やわらかさ
- ジューシーさ
- 全体的なおいしさ
筋肉内脂肪とも呼ばれる脂肪交雑は、動物の筋肉の中に細かく入り込んだ脂肪を指します。これに対し筋肉間脂肪は、筋肉の間にある大きめの脂肪片を指し、「seam fat」とも呼ばれます。筋肉の脂肪交雑の量は、肉質と消費者の食体験の質を決定づける最も重要な因子であり、脂肪交雑の量が多いほど、肉のやわらかさ、ジューシーさ、風味が高まります。
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筋肉間脂肪(Seam Fat) / 筋肉内脂肪, 脂肪交雑
脂肪交雑はやわらかさを高める
かさ密度効果
- 脂肪が溶けると筋繊維束の間に
空間が生まれる - 噛み切りやすい
- 「スイスチーズ効果」
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脂肪 / 赤身
脂肪交雑がやわらかさを高める方法の1つは、「スイスチーズ効果」とも呼ばれる「かさ密度効果」です。筋肉内に脂肪交雑が存在する場合、筋繊維束の間のスペースは脂肪に占められています。その肉が調理されると、脂肪が液状になって、あたかもスイスチーズの穴のように筋繊維束の間に空間が生まれます。この筋繊維束の間に生じた空間によって肉は噛み切られやすくなり、すなわちよりやわらかくなるのです。
潤滑効果
- 溶けた脂肪は噛むのを助ける
潤滑油となる
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脂肪交雑は潤滑効果によってもやわらかさを高めます。肉が冷たいときには脂肪は固体ですが、調理されると液体になります。そうして肉の中でオイルになった脂肪は、人の歯が筋繊維を噛んだときに潤滑油として働き、肉をよりやわらかくします。
脂肪交雑はジューシーさを高める
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剪断力(kg) 調理内部温度の終点(℃) セレクト チョイス
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- 溶けた脂肪は筋肉に水分を与える
- 脂肪は調理中の筋繊維から水分の流出を防ぐ
脂肪交雑は肉のジューシーさも高めますが、それは単に、調理されたステーキの中で脂肪交雑が溶けて液体脂肪が生じたためだけではありません。脂肪は水分を与えて、筋繊維を調理中に保湿する働きもします。筋肉の細胞は大量の水分を蓄えていますが、熱にさらされると、その水分が失われて肉が乾燥します。液体の脂肪は、それらの筋肉細胞から水分の流出を防ぎます。これによって肉のジューシーさが増し、結果的に肉がやわらかくなります。これは、お客がウェルダンの焼き加減を好むときに重要になります。肉質等級の高い肉ほど乾燥しにくいため、より質の高い食体験を得ることができます。
左の図は、74°Cまで(ウェルダンに)調理したUSDA等級「セレクト」と「チョイス」のステーキ肉のやわらかさを測定した剪断力値を示しています。同じ74°Cまでステーキ肉を調理したときの剪断力値は、セレクトの方がチョイスよりも高く、すなわち硬くなっています。
牛の月齢
- 結合組織の交差結合が多い
- 色が暗い
- 異臭が多い
- 脂肪交雑が少ない
牛の月齢も肉質に寄与する主な因子の1つです。通常は月齢が高い牛ほど個々の筋繊維束の中の結合組織が多い傾向があり、そのために肉のやわらかさが低下します。また、月齢が高い牛ほど、肉色に寄与するタンパク質であるミオグロビンの濃度が高い傾向があり、そのために肉の色が暗くなるとともに、風味がより強くなって異臭を放ちがちになります。さらに、これらの牛が濃厚飼料を与えられていない場合は通常、脂肪交雑の程度が低くなります。
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骨 筋周膜 血管 筋纖維 腱 筋外膜 筋内膜 筋纖維束 交差結合が少ない(より弱い) 交差結合が多い(より強い)
米国の肉質等級制度
- 米国農務省農業販売促進局(USDA-AMS)が運営する任意プログラム
- 1926年に導入され、見直しは12回
- 牛肉を食感品質によって仕分ける制度
- 脂肪交雑、月齢、赤身の色を評価
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消費者のために質の高い牛肉を識別する必要性から、米国は牛肉のUSDA肉質等級制度を策定しました。これは1926年に導入されましたが、米国産牛肉の食感品質(食味)をできるだけ確実に予測できるように、これまで12回の見直しが行われています。肉質等級は、脂肪交雑スコア、生理学的月齢、筋肉の色(赤身の色)に基づいて評価されます。
牛肉の肉質等級
脂肪交雑と肉色成熟度
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骨格の成熟度
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米国産牛枝肉の等級格付けを行うためには、まず左の写真のように枝肉を第12・13肋骨間で切断して、リブロース芯の断面を出します。この断面で脂肪交雑の量(脂肪交雑スコア)と肉色成熟度(赤身の色)を評価してスコアを割り当てます。
生理学的成熟度、すなわち牛の月齢を評価するには、胸椎のエンドの軟骨を評価してスコア化します。牛が約48ヵ月齢よりも若い場合は最胸椎のエンドの「ボタン」が主として軟骨でできています。牛の月齢が進むと、軟骨は骨化し始め、硬骨になります。また、歯列から月齢を判定する方法もあります。歯列を見れば、どの永久歯が存在しているかに基づいて月齢を判定することができます。
米国の脂肪交雑スコア
セレクト | チョイスの下位1/3 | チョイスの上位2/3 | プライム | ||
---|---|---|---|---|---|
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プレミアム・ビーフ・プログラム |
上の写真はUSDA肉質等級に区分するための脂肪交雑スコア(マーブリングスコア)の例です。筋肉内の脂肪交雑の量が増えるに従って、USDA肉質等級がセレクトからプライムへと上がって行きます。サーティファイド・アンガス・ビーフ(CAB)のようなプレミアム・ビーフ・プログラムの多くは、チョイスの上位3分の2およびプライムといった肉質等級を対象としています。
USDA肉質等級
若齢 高齢 |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|
脂肪交雑の程度 | 成熟度2 | |||||
A3 | B | C | D | E | ||
高い肉質 低い肉質 |
スライトリーアバンダント (やや多い) | プライム | ||||
モデレート (適量) | コマーシャル | コマーシャル | ||||
モデスト (並) | チョイス | |||||
スモール (少ない) | ||||||
スライト (わずか) | セレクト | ユーティリティ | ユーティリティ | |||
トレーシーズ (形跡あり) | ||||||
プラクテカリーディボイド (ほとんどなし) | スタンダード | カッター |
*成熟度スコア別のおおよその月齢: A=9~30ヵ月齢 / B=30~42ヵ月齢 / C=42~72ヵ月齢 / D=72~96ヵ月齢 / E=96ヵ月齢超
実際にUSDA肉質等級格付けを行うには、この図で脂肪交雑スコアを牛の月齢すなわち成熟度で平均化します。ご覧のとおり、USDAプライムとチョイスの格付けに適格とされるのは成熟度がAとB(9~42ヵ月齢)の肉牛だけです。月齢が42ヵ月を超えてしまうと、成熟度スコアがCからEの範疇となり、プライムやチョイスの対象外となります。
肉質等級格付け
- USDAの格付検査官が実施する
- 多くの食肉処理場が脂肪交雑スコアと肉色の判定にカメラ画像を利用している
- 検査官は生理学的成熟度を評価して、脂肪交雑/肉色のダブルチェックを行う
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USDA等級は、AMSの格付検査官が評価して割り当てます。多くの食肉処理場は現在、リブロース芯の画像を撮影して脂肪交雑と肉色を数値化するカメラを用いたシステム導入しています。検査官は成熟度を評価して、カメラで測定された脂肪交雑と肉色のダブルチェックを行ってから、USDA肉質等級のスタンプを枝肉に押捺します。
食味に対する脂肪交雑の影響
やわらかさの評価
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TR 6.99 SL 7.66 SM 8.64 MT 9.49 MD 9.74 SA 10.7 MA 11.24
ジューシーさ
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TR 7.41 SL 7.52 SM 8.49 MT 9.01 MD 9.54 SA 10.41 MA 10.94 スタンダード セレクト チョイス下位 チョイス上位2/3 プライム
肉/肉汁の風味
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TR 6.99 SL 7.4 SM 7.89 MT 8.47 MD 8.66 SA 9.16 MA 9.43
食感品質に対するUSDA肉質等級と脂肪交雑スコアの重要性を示すために、脂肪交雑スコアと食味評価を関連付ける科学的研究が多く実施されています。上の図は、訓練された官能検査員が各脂肪交雑スコアレベルのステーキ肉のやわらかさ、ジューシーさ、牛肉風味をどのように評価したかを示しています。
どのカテゴリーにおいても検査員らは脂肪交雑スコアが高いステーキほど好ましいと判定しており、このことはやわらかさ、ジューシーさ、風味の向上に対する脂肪交雑の量の重要性を明確に示しています。
TR(TRACES) | トレーシーズ(形跡あり) |
---|---|
SL(SLIGHT) | スライト(わずか) |
SM(SMALL) | スモール(少ない) |
MT(MODEST) | モデスト(並) |
MD(MODERATE) | モデレート(適量) |
SA(SLIGHTLY ABUNDANT) | スライトリーアバンダント(やや多い) |
MA(MODERATELY ABUNDANT) | モデレトリーアバンダント(おおむね豊か) |
Emerson, Tatum, Belk and Woerner. 2011。
カメラ判定のUSDA肉質等級と牛肉官能特性の関係。コロラド州立大学。
風味と肉質等級
好まれる風味
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消費者スコア 肉質等級 スタンダード 1.6 7 セレクト 2.1 7.4 チョイス下位1/3 2.9 7.9 チョイス上位2/3 4.4 8.6 プライム 6.9 9.3 バター/牛脂の風味 肉/肉汁の風味
- ■ バター/牛脂の風味
- ■ 肉/肉汁の風味
風味の内訳をみると、牛肉を食べたときに好ましいとみなされる「牛脂の風味」と「肉/肉汁の風味」に関する消費者パネルの評価は、USDA肉質等級が高くなるとともに劇的に高くなりました。
嫌われる風味
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消費者スコア 肉質等級 スタンダード 3.3 0.8 0.9 セレクト 3.3 0.7 0.6 チョイス下位1/3 3.0 0.6 0.5 チョイス上位2/3 2.4 0.4 0.4 プライム 1.7 0.3 0.2
- ■ 血/血清の風味
- ■ レバー/臓器の風味
- ■ レバー/臓器の風味
逆に、「血/血清」、「レバー」、「草」といった否定的に受け止められる風味の存在はどれも、USDA肉質等級が高くなるほど少なくなりました。
好ましい食体験の割合
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プライム チョイス上位2/3 チョイス下位1/3 セレクト スタンダード
Emerson, Tatum, Belk and Woerner. 2011。
カメラ判定のUSDA肉質等級と牛肉官能特性の関係。
コロラド州立大学。
好ましい食体験だったと評価した消費者パネルの割合は、USDAプライムのステーキを食べたときが99%、USDAチョイス上位3分の2のステーキを食べたときが85%であったことがデータによって示されています。この割合は、USDA肉質等級が下がるにつれて低下しました。
プライム=99% | 好ましいと評価しなかった消費者 パネル=100人中1人 |
---|---|
チョイス上位2/3=85% | 好ましいと評価しなかった消費者 パネル=7人中1人 |
チョイス下位1/3=67% | 好ましいと評価しなかった消費者 パネル=3人中1人 |
セレクト=28% | 好ましいと評価しなかった消費者 パネル=4人中3人 |
スタンダード=15% | 好ましいと評価しなかった消費者 パネル=6人中5人 |
牛肉の風味
- 多くの因子に影響される
- 食べたときの満足感に影響する最も重要な特性は、やわらかさ
- やわらかさが一定の場合は、風味が満足感の最も重要な原動力となる
牛肉風味プロファイル
肉/肉汁の風味 | グリルまたはローストされた牛肉の基礎となる風味と香り;ビーフブロスの風味がこれに似ている |
---|---|
バター/牛脂の風味 | 濃厚飼料仕上げの牛肉の脂肪が調理されたときの風味と香り;「バターのような」と表現されることが多い |
血/血清の風味 | レアの焼き加減で調理された牛肉の血の風味と香り |
レバー/臓器の風味 | 調理された牛レバーまたは腎臓の風味と香り |
草のような風味 | 粗飼料仕上げまたは短期仕上げの牛肉の風味と香り;青臭い、干し草臭いと表現される |
全体的な官能体験評価に影響する牛肉の官能特性
指摘された影響因子の割合
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81% 10% 1% 1% 1% 1% 5%
- やわらかさ
- バター/牛脂の風味
- 草のような風味
- 肉/肉汁の風味
- ジューシーさ
- レバーの風味
- 特になし
Emerson, Tatum, Belk and Woerner. 2011。 カメラ判定のUSDA肉質等級と牛肉官能特性の関係。コロラド州立大学。